京都府外国人介護人材支援センターでは、外国人介護人材に関する情報発信を行っています。
今回は、特定技能等の外国人介護職員を受入れている社会福祉法人 かなえ福祉会 特別養護老人ホームすないの家 太秦(右京区)に伺い、取材しました。
この施設で働いているアリ ウルバンシャーさん(以下アリさん)、ファジャル シディクさん(以下ファジャルさん)は介護福祉士国家試験に合格されました。
今回の取材では、アリさん、ファジャルさんに介護福祉士国家試験に向けて取り組んだこと等を、そして、施設長の村上 ちこさん、介護主任の久保井 俊光さん、介護副主任の山﨑 将也さんには、日ごろの外国人介護職員とのかかわりや施設での取り組み等のお話を伺いました。(取材日 令和7年11月4日)
※掲載内容はすべて取材時点のものです。
前列左から ファジャルさん、アリさん 後列左から 山﨑介護副主任、村上施設長、久保井介護主任
【特別養護老人ホームすないの家 太秦 基本情報】
開設年月日 令和3年6月
定員 入居者数 120名
職員数 約70名(うち17名が外国人介護職員(特定技能14名【インドネシア、ベトナム】、在留資格「介護」(介護ビザ)2名、日本人の配偶者等1名)
アリさん、ファジャルさんは2022年から特定技能「介護」の在留資格で、特別養護老人ホームすないの家 太秦で働かれています。お二人は同期として切磋琢磨し、介護福祉士国家試験に合格されました。介護の仕事を始めるまでのことや介護福祉士国家試験に向けて取り組まれたこと等をインタビューしました。
■自己紹介をお願いします。
アリさん)はじめまして。アリ ウルバンシャーと申します。インドネシア出身です。
2014年に来日し、技能実習生として建設関係の仕事を3年間していました。
技能実習を終え、インドネシアに帰国した後は日本語教室で日本語を教えていました。コロナの影響で仕事がなくなった際、日本語教室に日本人の上司の方がいて、その方に相談したところ、日本の介護の仕事を勧められました。すないの家 太秦を紹介してもらい、2022年から特定技能「介護」の在留資格で働き始めました。
ファジャルさん)はじめまして。ファジャル シディクと申します。インドネシア出身です。
2016年に来日し、技能実習生としてアルミの鋳造の仕事を3年間していました。
技能実習を終え、インドネシアに帰国した後は日本語教室で日本語を教えていました。アリさんとはその時に知り合い、同僚として一緒に仕事をしていました。アリさんと同じくコロナで仕事がなくなった際、日本人の上司の方に相談したところ、介護の仕事を勧めてもらい、2022年から特定技能「介護」の在留資格で働きはじめました。アリさんと一緒にすないの家 太秦に入職したので、アリさんとは同期です。
■すないの家 太秦で働いてみて感じるよいところを教えてください。
ファジャルさん)職場環境はとても良いと感じています。
上司の方や職員の方に優しく仕事を教えていただきました。とても働きやすい職場です。
介護の仕事をするのは初めてでしたが、介護の仕事はとても楽しく、自分に向いていると思います。
アリさん)最初は不安でした。京都の人は表裏があるという偏見もありました(笑)
ですが、実際に仕事を始めてみると、周りの皆さんは優しく、丁寧に指導していただきました。
入居者の方にも優しくしていただき、声をかけていただけるので、嬉しいです。
同僚とも仲が良く、プライベートでバイクのツーリングに行ったり、カラオケで日本の曲を歌ったりとよく遊びに出かけています。
■介護福祉士を目指した理由はなんですか。
アリさん)家族を日本に呼びたいと思ったからです。
また、専門的な知識を得ることは仕事に役立つと思ったので、介護福祉士を目指しました。
ファジャルさん)昔から日本が好きでした。家族を日本に呼び、長く日本に住みたいと思いました。
また、たくさんの高齢者の方と関わるのに専門的な知識を得て、よりよいケアをしていきたいと思ったのが理由です。
■介護福祉士になって変わったことを教えてください。
アリさん)介護福祉士としての自覚を持たなければならないと思いました。
言葉遣い、接し方をきちんとしなければならないと思っています。給与面でも手当をいただいたり、変化したことがあります。
住む場所も会社の寮から引っ越し、自分で住む家を探しました。今は新しい家から職場に通っています。
ファジャルさん)日本に長く住むことができ、家族を呼ぶことができるようになりました。
介護福祉士の資格を取得したことで周りからの期待や仕事上の責任が増えましたが、それもとてもやりがいに感じています。
アリさんと同じく、私も新しい家を自分で探し、引っ越しました。自分で家を探すことができるのも変わったところです。
■介護福祉士の試験に向けて取り組んだこと(勉強方法)を教えてください。
アリさん)私は本で勉強するのが苦手です。なので、YouTubeの動画をよく見ました。
過去問題をひたすら解き、自分が苦手な科目を見つけたら、苦手な科目のYouTube動画を見る等して勉強しました。
法人の勉強会にも参加し、そこでも過去問題に取り組みました。
また、仕事の休憩時間も勉強しようと思い、介護福祉士の問題に取り組めるスマホのアプリを活用していました。
過去問題で満点をとれるまでひたすら勉強しました。
日本語教室でシラバスを作っていたことが、自身の勉強の計画を立てることにも役立ちました。
ファジャルさん)日本語のレベルで勉強方法が異なると感じています。
N3~N4レベルの方は、1年目は日本語の勉強と仕事を覚えることを大切にし、2年目から介護の勉強に取り組んでいくのが良いと思います。
私は独学で勉強する自信がなかったので、InstagramやTikTokで検索し、母国語で介護の勉強を教えてくれるオンライン研修を受講していました。
過去問題を解く時はまずは全問挑戦し、苦手な科目を強化していくようにしました。
とにかく過去問題を解き、8年分くらい解きました。
スマホのアプリなども活用し、平日は1日2時間くらい、休日は3~4時間くらい勉強していました。
職場の職員さんにわからないところを教えてもらったりもしました。
■日本語の勉強はどのように取り組まれましたか。
ファジャルさん)日本語の勉強は技能実習で日本に来てからはじめました。
技能実習で働き始めた時、日本語が話せず、外国人の職員は私しかいなかったので周りの職員さんとうまく馴染めませんでした。それが悔しくて一生懸命勉強したことで周りの雰囲気も変わっていきました。
帰国後、日本語を教えていた時は日本語レベルに応じた暗記用の単語帳を作っていました。そうした経験から日本語が上達していきました。
アリさん)日本が好きで、高校生の時から日本のアニメを見たり、日本のアーティストのコピーバンドをしたりと日本語をたくさん聞いていました。
アニメを見るときは字幕はなしで見るようにし、「こんなことを言っているのかな」と思いながら見ていました。
本で勉強した後、アニメを見て「こういう意味だったのか」と答え合わせをしていました。
上達するには聞いて話すことが大切だと思います。
■介護福祉士の試験に挑戦する外国人介護職員の方へメッセージ
ファジャルさん)介護福祉士の国家試験は外国人にとって簡単ではありません。
ですが、毎日少しずつ勉強をすれば、必ず結果が出てきます。
勉強は難しいですが、努力すれば必ず合格できます。頑張ってください!
アリさん)来年の1月に受験される方は、これまで頑張ってこられたと思います。残りの期間はこれまでの勉強を振り返って、試験に向けて頑張ってください。
特定技能「介護」で働き始め、これから受験を考えている方は、まだまだ先と思わず、コツコツ仕事と勉強に取り組んでいってほしいと思います。
ただ、勉強が続くとしんどいと思うので、自分の好きなこともして、息抜きしながら頑張ってください!

ファジャルさん 仕事中の様子 アリさん 仕事中の様子
施設長の村上 ちこさん、介護主任の久保井 俊光さん、介護副主任の山﨑 将也さんには、日ごろの外国人介護職員とのかかわりや施設として取り組まれていること等をインタビューしました。
■ 施設で日本語能力向上のために工夫されていることを教えてください。
久保井さん)外国人介護職員の方から「関西弁がわかりません」という悩みがよく寄せられます。その際はよく使う関西弁を教えています。
また、漢字を覚えることも大切なので、まずは入居者の方のお名前で漢字を覚えてもらうようにしています。
日本語を読む、話すだけでなく書くことも大切になるので、書く練習はホワイトボードに食事メニューを書いてもらうようにしています。
ホワイトボードにメニューを書いている時には意味がわからなくても、実際に食事を見て、「なるほど」と理解してもらえるようにしています。また、外国人介護職員の方が入職した際は1週間ほど介護主任と介護副主任が介助の基礎などを指導し、その後、現場に入ってもらうようにしています。
現場での指導はユニットリーダーが中心となり、担っています。
ユニットリーダーは外国人介護職員の出身国の特性やそれぞれの性格等を把握しながら、指導しています。
この人には介助の様子を見せながら伝えた方がよい、この人には反復して伝えた方がよいなど、それぞれに合わせた指導をしてもらっています。
特に外国人介護職員の方に何かをお願いをした後、「わかりました」という返事があったときは、もう一度何をするのか話してもらい、丁寧に確認することを心がけています。
Huble株式会社(※グループ会社の登録支援機関)が実施する日本語研修にも希望する外国人介護職員に参加してもらっています。
法人独自でも家庭学習のプリントを用意し、計画的に日本語能力試験(JLPT)の取得に向け、解答・採点・添削をする形式となっており、施設と法人が一体となり、サポートに取り組んでいます。
山﨑さん)法人全体で外国人介護職員を育成していこうという雰囲気があると思います。
法人に積極的にかかわってもらえるのは職員としても、とても心強いです。
■ 介護福祉士国家試験に向けて、施設としてサポートされたことがあれば教えてください。
村上さん)職員が研修に参加する際はシフトを調整する等のサポートをしています。
また、介護福祉士実務者研修や介護福祉士国家試験の受験費用は資格取得支援制度でサポートしています。
その他にも国家試験対策講座の受講も法人負担で登録支援機関に依頼するなど法人と一緒になってサポートをしていくという雰囲気があります。
また、施設内で国際人材向上委員会を2か月に1回開催しています。
私と介護主任、外国人介護職員が参加し、外国人介護職員に学びたいこと、苦手なことを出してもらい、救急搬送や軟膏の塗り方、排せつケア等の研修を実施しています。
研修は介護主任が講師を務めますが、参加している外国人介護職員からの質問で新たな気付きを得ることもあり、施設としてもとても助かっています。
ちなみに委員会の議事録や報告書の作成は外国人介護職員にタブレットで録音後に作成してもらい、介護主任が添削しています。最終的には日本人職員と同じように一人で作成してもらっています。
■アリさん、ファジャルさんが介護福祉士になられたことで施設に変化はありましたか
村上さん)身近に目標となる先輩職員がいることは外国人介護職員にとって、「自分も頑張れば介護福祉士になることができる」という気持ちになっていると感じます。
久保井さん、山﨑さん)日本人職員もアリさん、ファジャルさんが本気で取り組む姿勢を見て、刺激をもらっています。
村上さん)アリさんは12月からユニットリーダーに就任予定です。受入当初は日本人職員が外国人介護職員を指導していましたが、先輩の外国人介護職員が経験を積み、指導者としても活躍してもらっているので、施設としてとても心強いです。
左から山﨑介護副主任、ファジャルさん、アリさん、久保井介護主任

